(2010年01月15日)
2010年1月1日発行の印刷之世界社「印刷ビジネスレポート」479号に、
「大学印刷維新プロジェクト」のメンバーが当社の本社と伊丹工場を
視察、懇談会を行なった模様が掲載されました。
印刷タイムス学生版 掲載記事(本文)
大学印刷維新プロジェクト「CSR報告」 不二印刷に見る新たな発見
大学生の心を捕えたF-JIT活動
働く環境、新事業への取組みに感動
今年のJP2010情報・印刷産業展で、「印刷技術の確かな価値」を一般消費者の立場で、自らの目と体験を通して確認し、その結果をもって印刷業界と社会をつなぐ橋渡し役を務めようとする近畿12大学の学生で組織するinsense project(インセンスプロイジェクト・会長:宮川卓也氏、立命館大学3回生)のメンバーは、昨年11月から「企業CSR」をテーマに、大阪圏を中心とする印刷会社に見学団を送り込み、実態把握を進めてきている。
これまで印刷業界と接点を持たずにきた大学生たちは、JP2010でのブース展開に備えて「大学印刷維新プロジェクト」(大刷新プロジェクト)を打ち出し、積極的に各企業の視察や懇談会、業界役員との座談会をこなし、印刷技術と企業体質の確認作業を行ってきている。昨年11月24日、不二印刷株式会社(大阪市北区南森町・社長:井戸剛氏)の本社と伊丹工場を見学し、井戸幹雄会長との懇談会を経験した同プロジェクトのメンバーに、はたして中小印刷企業の実態はどのように投影されたのか。参加者の報告書として一挙掲載する。(掲載記事は報告者の文責とする)
報告者・宮川綾香氏(立命館大学産業経済学部)
禅寺でヒントを得た理念 「共生-ともいき-」
見学は、南森町の本社と、伊丹にある工場で行われた。まず本社では、井戸幹雄会長の挨拶から始まった。この挨拶で印象的だったのは、井戸会長の経営理念に対するものであった。
井戸会長 会社の概要と経営理念の話をしたいと思います。弊社にはクレドという小さな冊子があります。クレドとは「信条」を意味するラテン語のことです。経営理念は、ご存じのとおり信条、お互いに信じること。不二印刷の経営理念は、基本的には、最近のはやり言葉で「共生」、共に生きるということです。クレドでは、不二印刷においての価値観をまとめています。
私は、昭和42年、今から43年前、32歳の時に不二印刷の社長に就任しました。社長になって40年たちましたのでバトンタッチしましたが、最初に社長として入社したときは、もちろん若造で、誰も信用してくれませんでした。32歳だったので、皆さんよりも10歳ほど年上の時でしたから、誰も信用しません。
そのときに、自分の心の中で葛藤し、宇治の黄檗宗「萬福寺」という禅寺へ、精神を修行させてくださいということで行きました。そこのお坊さんに、印刷会社の社長としてどんな気持ちで取り組めばいいのか、相談しました。そうすると、背中をたたかれて、一喝のうちに、「君なんてできない、帰りなさい」と言われました。私は、5回か6回、お坊さんの話を聞きました。その中でヒントをいただいて、最後に「ともに生きる」ということを経営のキーワードにしたいという話をさせてもらいました。
心を一つに、誰からも信頼され発展する会社へ
井戸会長 ともに生きるということは、どういうことかというと、その下に「協調・対話・勉強」と書いていますが、すさんだ会社の心を一つにするために、おみこしを担ぐような気持ちで、仕事をしようではないか。少なくとも、おみこしにぶら下がるようなことはしないでください。一生懸命担ぐ格好だけでもしてください。そういう話を社員に対してしました。
ともに生きるということを中心として協調し、対話し、勉強していかなければならないし、対話も勉強も必要だと当時から言っていました。進化の議論ではないですが、人間だけが変化してきたので、動物の中で最強の動物になりました。マンモスのように大きな動物でも小さい動物でも繁栄してこなかった。人間だけが、地球上で生きていく、ちょうどいいサイズに出来上がって、進化してきたから現在の人間社会があるということですから、常に変化しながら対応していきましょう。私は朝礼の場でそういうお話をし続けてきました。
基本的には、不二印刷のお客さまの企業価値の向上に貢献でき、誰からも信頼され、お客さま、協力会社、一般社会と共存し、発展する企業を目指す。これを経営理念にしています。このことにより企業の社会的責任を果たして行きたいと考えています。
報告者・井上春奈氏(立命館大学産業社会学部)
人の温かさを感じた本社見学
井戸会長の挨拶、「共生」についてのお話を聞いた後、本社内の各部署(営業部、クリエイティブ、プリプレス、デジタルフォト、デジタル印刷、ソリューション各部門)を案内していただいた。仕事の流れに沿って各部署を案内していただいたので、一つの印刷物ができるまでにどの部署の人がどのような働きをするのかということをしっかりと理解することができた。それぞれの部署には社員一人ひとりのモチベーション向上につなげるためや、作業効率を高めるための工夫がされていた。
全体を通して印象的だったのは、「人々の温かさ」である。どこの部署でも、私たちが「こんにちは」と入り口のドアを開けると社員の皆さん全員が立ち上がりこちらを向いて笑顔で「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。また、仕事中にも関わらず、何も知らない私たちに仕事内容などを丁寧に教えてくれる方もいた。印刷という仕事はサービス業というよりものづくりの分野に分類される仕事であるが、不二印刷で働く人たちのホスピタリティの高さには本当に感動した。会社の魅力はそこで働く人々に表れると改めて感じた瞬間であった。
報告者・北市広毅・加藤歩氏(立命館大学産業社会学部)
熱い工場長のお話から考えた「働く楽しさ」
本社見学ののち、伊丹にある工場へ移動した。伊丹の工場では、輪転機による大量印刷、製本などを行っている。初めて見る巨大な輪転機とそこから発せられる大きな音、インクのにおいに、メンバー全員が驚いた。また、製本の機械のリズミカルな動きに楽しませてもらった。機械の見学ののち、工場長から印刷についての熱いお話を聞かせていただいた。
この工場長とのお話で感じたことは、仕事を楽しむためにはどうしたら良いか、ということだ。なぜなら、実際に工場でお仕事をされている従業員の方々の様子を見ていて、工場で働くことに楽しみを感じるにはどうすればいいのか、ということを感じたからだ。また、工場長から「この工場の社員さんはみんな仕事を楽しんでいます。仕事は楽しむもの。」という言葉を聞いた。このことを通して、不二印刷会社の工場での場合だけでなく、自分が楽しんで働くためにはどうすれば良いのかということを考えさせられた。
井戸幹雄会長との質疑応答から
報告者・宮川綾香氏
伝統と革新 「不易流行」の考え方
見学をすべて終えた後、井戸会長との質疑応答の時間をいただいた。
学生 印刷業界において、会長が「変えたいもの」と「変えたくないもの」を一つずつ挙げていただけますか。
井戸会長 いろんな話がありましたが、私個人の座右の銘は「不易流行」です。どういう意味かというと、芭蕉が新しく俳句を作るときの考え方、芭蕉の俳句の思想ですが、流行、つまり新しいものに取り組む姿勢と伝統を守ることは、どちらが優先するものでもない。新しいことに取り組むことも大事であり、同様に伝統を守ることも大事です。そういう意味で、不易流行という言葉が私の座右の銘になっています。
印刷業だけではなくて、企業が置かれている環境は、ここ1、2年、特に環境の変化が激しいと思います。環境の変化に対して、自分自身が変わらないと、会社あるいは社員の考え方が変わらないと、寒い風に吹きさらされるだけです。ですから、何でもいいから一つずつ変えていきなさいということです。
一方では、伝統を守っていかなければならないという考え方があります。不二印刷にとって一番大事なこと、守らなければならないのは、精神的なものが中心になりますが、不二印刷のDNAの見える化、不二印刷の基本的な考え方です。基本的には「ともに生きる」、お互いに助け合って新しい道を切り開いていかなければならない。この基本的な理念だけはどうしても変えたくない。
ただ、印刷業の変化がありますから、会社として、印刷を軸としていますが、そこから派生してくる問題については絶え間なく取り組んでいく。先ほど三つのことを言いましたが、それ以外にもたくさんあります。
目に見える形では、本社の1階で1枚ずつ印刷していくという形の印刷機を見ていただきました。印刷工場を見ていただくと、大量の印刷をするのに適していると感じていただいたと思います。1階の印刷工場を見ていただくと、1枚ずつできてくるということが分かっていただいた。少なくとも1枚から百万枚、1千万枚までの間は、どこを切り取っても採算が取れる工場という形で、これはシームレスにしていきたいと思っています。下の機械では1部から1500部ぐらいまでなら採算が取れる。伊丹工場は5千部以上なら採算が取れます。その間、まだ少し空いていますので、シームレスに動かすためにはどうすればいいかということがテーマです。
ここから派生してくる仕事はたくさんあると思います。ウェブの世界になっていくことは、すでに皆さんも感じているように、そちらに移行していくので、不二印刷としては、印刷を軸として、いろんなところに開拓の手を伸ばしていきたいと考えています。
学生 工場に行ったときに、職人の知恵や、今まで長い間やってきた印刷業界の中でのつながりがあり、それを引き継ぐ大切さのお話を聞かせていただきました。そこで、伝統を引き継ぐということで、不二印刷さん全体として何か取り組まれていることはありますか。
井戸会長 伝統を受け継いでいくということは、われわれが上から命令するのではなくて、自主的な形でしかできません。その自主的な方法がF-JITです。F-JITは、不二印刷の新たな取組みで、働く環境、新しい事業などに取り組んでいるものです。
学生 CSRも含めて、環境問題に対して不二印刷さんではどのように取り組んでいますか。
井戸会長 環境問題、CSR、社会的責任ですね。CSRについては、中小企業にとっては大変難しい問題ですが、不二印刷のできる範囲内で社会に貢献していこうと考えています。今、これをやっていますと言えるものはありませんが、企業として少なくとも地域社会にご迷惑をかけるようなことはしてはいけない、地域と一緒になって物事を進めていくということを意識しています。
環境問題については、少なくとも10年前の2000年と比較して、25%どころではなくて、30%ぐらい、環境負荷は少なくなっています。CO2の問題でも、少なくとも生産量からいうと10%ぐらいは、環境負荷の低減に成功していると思います。いろんな意味で、印刷業だけではなく、印刷業とそれを取り巻く業界、特に大きいのは紙の業界ですが、それも含めて、環境問題については今後も取り組んでいきたいと考えています。
学生 今までで一番思い入れのあるお仕事はどのようなものですか。
井戸会長 私個人として思い入れがあるのは、不二印刷を立ち上げたということです。私が社長になったのは32歳の時ですが、それから2、3年たって、どうして印刷業を経営していくかという基本的な問題がありました。印刷業をどうするか、英文の膨大な論文を手に入れて、それを一生懸命、自分で辞書を引きながら、そういう方向に会社を持っていったということが一つの思い入れです。
伊丹工場にあるオフセット輪転機も、大阪で導入したのは2番目か3番目ぐらいです。間をつなぐ技術、枚葉オフセットという技術がありましたが、それを飛び越して、活版印刷からオフセット輪転機の導入を図ったのは、自分としては思い切った施策、当時は売り上げに匹敵するぐらいの設備投資を行いました。そんなことが私の思い入れです。あとは、工夫を凝らして小さいことからやっていくということだと思います。
報告者・佐竹宏美氏(立命館大学産業社会学部)
不二印刷の新しい取り組み
不二印刷様の本社を見学させて頂いたとき、個人の仕事の習熟度が表わされている能力視覚チャートを目にした。これは不二印刷さんが取り組んでいる「F-JIT」という働きやすい職場を目指した取り組みの一つだ。「F-JIT」のJITとはJust In Timeという意味で、必要な分だけすぐに納品することで無駄をなくそうという考え方である。この「F-JIT」を3年前から社内の目標として掲げ、同時に一人一人の仕事の「見える化」に取り組んでいるそうだ。例えば、先に紹介した200項目にも渡る能力視覚化チャートやサンクスカードの導入により、一人一人の状況を把握し、お互いが仕事を進めやすい環境を築いている。このような取り組みにより、仕事の効率化やモチベーションの向上が図られ、一人一人の働きが認められるボトムアップ型の職場が実現されているように感じた。
また、不二印刷の特徴である1枚ずつの少量印刷から5千部以上の大量印刷までできるという点を生かして、1枚ずつ違うプリントを印刷するオリジナル印刷によって新たな価値を付けたり、web上で商品の情報を見られるようにするなど、顧客のニーズに答えられるような様々な取り組みがされていた。
会長さんが大切にしている「不易流行」という言葉のように、今まで培ってきた印刷の技術を守りながらも新しい取り組みに挑戦していく姿勢がこれからの印刷業界に求められていることのように感じた。